BMI導入から5季目。確かに細いだけの若い選手は勝たなくなったけれど、じゃあ大柄なパワージャンパータイプが強くなったかというとそうではない。何年か前にも書いたが、ただ闇雲に痩せていればいいのではなく、枠内で痩せなければならなくなり、それは定着した。ジャンプの傾向は、浮力が得られなくなったのだから、確実に変わったと思う。マテリアル周辺のルールはもう変わらないと思うのだが。
さて、今季はリベレッツの世界選手権のシーズンで、あれからもう2年経つなんて、本当に早い。絶対、行くって、誓ったのに...。リベレッツはとにかく天気がね。なんか常に曇ってた。札幌WMは天候に恵まれた。複合は風が強かったけど、純ジャンは。今季は純ジャンの銅、複合の金につきるのか。岡部選手は大ジャンプで銅を決め、その後、WCでも一勝した。日本はいい方へ向かってるのかなぁ、と思いながら、今季を振り返ってみたい。
グレゴア・シュリーレンツァウアー
アホネンの一季最多勝記録を抜き13勝。27戦中、ほぼ半分を勝った。そして一度もトップ10を外していない。昨季の終わりの四連勝から、GPも好調で順調だった。オーベのフライングの凪待ちがなければ連勝記録さえ破っていたかもしれない。 しかし、ダントツのようだけど、総合優勝が決まったのは、プラニッツァのフライング2戦を残したヴィケルスン。追従してくるアマン、ロイツルが手堅く表彰台に乗っていたからかもしれない。終わってみれば、2位以下とはけっこうな点差がついたけれど。 札幌の会見で、札幌が好きだと言った。ジュニアチャンピオンになったシーズン、初めて飛んだ大倉で2位になって好印象を持っただろう。二度目の来札になる07WMは、団体では金を獲ったものの、メダル候補だったにもかかわらず、個人戦のできはそうはよくなかったから、好きだというのは意外だった。あのときアレックスの隣りにいたキミは、怯えているようにさえ見えたから。今年も来ないのではと思ったくらい。札幌の夜空を切り裂いていったあの高いフライト。見せつけられた力は想像以上で、今、勝っている者の強みか、精神的な脆さに対する不安さえ払拭する。 アホネンのカムバックに「これ以上記録を破られたくないからじゃないの」と。でも、シュリーリがアホネンの4HT5勝の記録を破るには最短であと6年かかる。ああ、でも、あと10年やってもまだ29だものね。若いって残酷だな。でも、そのときまで、ヤンネのようにいられるのかな。
1990年1月7日生まれ、19歳。総合1位。13勝、2位×3回、3位×4回。
シモン・アマン
アマンは最初の8戦で5勝。最後の1勝は4HTのオーバーシュトドルフだけど、もうロイツルが来ていた。その後も表彰台に乗り続けるが、ピーク作りということで言えば、早すぎた。本当は札幌になんか来たくなかったんだろうと思う。でも、来ると決めた。総合を考えると離されたくなかっただろうし。札幌では7位。シュリーリは勝って64点差。もう1戦行われていればアマンが勝っていたかもしれないし、そもそも来なければ100点、200点差がついていた可能性もある。こんなにリスクを冒してまで来たのに、勝てなくて、あとで響くんだろうなとふと思う。もちろん来てくれてうれしかったけど、シミィの笑顔を見てると、少し胸が痛む。結局はシュリーリが勝つんだろうという予感もしつつ、総合が獲れればいいなと思う。札幌WCレポートの"チャンピオンの憂鬱"のチャンピオンとはだからアマンのことだったのだけどね。 ソルトレイク五輪で二冠、札幌WMでも金メダルを獲っても、スイスという、いわゆる強豪国ではなく、その分、強引さのない真摯な取り組み。アマンは今、アスリートとして完成形に近い。それゆえ総合が獲れたらよかったんだけど。 1981年6月25日生まれ、27歳。総合2位。5勝、2位×8回、3位×4回。
ヴォルフガング・ロイツル
2位にはなれるのに勝てない。それがミスター安定、ミスター団体戦、ロイツルらしい気もした。でも、これだけ続けば(開幕と、エンゲルベルクから三連続)きっといつかは勝てると思ったし、勝たせたいとも思った。WCデビューから12季目。4HTのガルミッシュで初優勝を果たし、そのまま三連勝。教科書より美しいと言われる飛型。HSを越えてもなおテレマークを入れる。20点満点連発。白黒青のウエアが眩しくて、大きな目が潤んで輝いている。あなたが雪面に口づける様は本当に美しかった。WC3勝、総合3位、WMで金。まちがいなく充実した最高のシーズンでしたね。 飛んでも飛んでも勝てなかったのに、ふと勝てたのは、今までと何がちがうのか。変わったことと言えば、スキーを代えた、フィッシャーからアトミックに。始めは苦労したけど、冬に結果が出た。成功の明確な理由なんて、後づだったりするのだろう。トップ2のスキーはフィッシャー。ロイツルはアトミック。モルギもフィッシャーからアトミックに代えた。アマンは今季、エランからフィッシャーに代えた。メーカー間の格差はそうはないと言われる。ただ対応は多少、異なるだろうし、自国の選手、トップ選手には手厚いだろうし、一番は信頼して飛ぶこと、マテリアルのせいにしないこと、いや、マテリアルのせいにでもして、即座に気持ちを切り替えること、だろう。辞めないで、よかったね。
1980年1月13日生まれ、29歳。総合3位。4勝、2位×7回、3位×2回。
ハッリ・オッリ...とフィンランド
上位3人が皆勤賞、1戦も欠場していないなのに対して、オッリは5戦欠場しての4位。効率がいい。昨季の26位から大躍進。ピタリとはまったときの彼はとんでもないジャンプをする。いろいろあっても、結局、実力があるので使ってもらえているのか。何かやらかすのはジャンプだけにしといてね。来季、フィンランドはアホネンが戻ってきて、みんなからプレッシャーは軽減されるだろうし、今季よかったオッリ、まだ19歳のラリント。そして練習を開始したというハッポネンも復帰すれば、怖い存在になるかもしれない。
1985年1月15日 生まれ、24歳。総合4位。3勝。
マルティン・シュミット...とドイツ
マルティンが総合優勝したのは長野の次のシーズン、98/99。21歳だった。今季、表彰台に2回。1本で終わったとはいえWMで銀。うれしい復活。「すべてが合えばオスロまでやりたい希望があるみたい」とコーチが言っていた。ここでもがんばる、ベテラン。岡部クンのことを思えば、マルティンだって今後、まだ勝てる気がする。ドイツはヘッドコーチがローヴァインからシュスターに替わった。ローヴァインは決して悪くなかったが、マンネリ打破に意味があった。ウアマン、ノイマイヤーに加えて、来季はシュペートが復帰するはず。190cmとドイツ人としてはごくふつう、でもジャンパーとしては大きすぎるヴァンクやショフトといった若手がどこまで伸びるか。ディーターを引退させたように、マルティンは誰に打ち落とされるのか...。
1978年1月29日生まれ、31歳。総合6位。
トーマス・モーゲンシュテルン
昨季の6勝、総合優勝から一転、今季はついに1勝もできなかった。モルギもサイボーグなんかではなかった...。最高位はバンクーバーと札幌の2位。得意の札幌で調子を上げ、もう少しでWMでメダルだった。転倒は悔しかったね。もう泣きそうだった、いや、泣いてた。生意気を言っても憎みきれない天真爛漫な笑顔が曇る。負けず嫌いが負けたときのしかめっ面。もしかしたら、厄年? 前厄か...
1986年10月30日生まれ、22歳。総合7位。
岡部孝信...と日本
確かにわたしは書いた、同じような成績なら若手に投資すべきだと。でも成績が出ているなら誰だろうとかまわない。ベテランはギャラが高いというわけでもないし。アホネン、カムバックのニュースと、岡部孝信が11季ぶりに勝ったこと、これ、かなりの衝撃だった。だって、28戦中(うち1戦中止@札幌)、シュリーリ13、アマン5、ロイツル4、オッリ3、そして湯本と岡部が1つずつ。GERやNORにしてみれば、何かの冗談か。毎週スタンディングをUPしていて思ったこと。参戦していないのに意外と順位が下がらない日本人選手が多い。国別トップのAUTは50位以内に6人、JPNは7人の最大枠。でも、やっぱり、若手に期待したいなぁ。伊東大貴(雪印)はどうですか...? ちなみに岡部クンと同い年の人たち:ピーター・アーツ(K1)、伊達公子(テニス)、宮本慎也(ヤクルト)、谷繁元信(中日)、城島茂(TOKIO)、岡村隆史(ナインティナイン) など
1970年10月26日生まれ、38歳。総合28位。1勝。
NOR
'02年からヘッドコーチに就任したコヨンコスキマジックも解けてきたのかと思うような、スロースターターぶり。1勝もできずあまりよくなかった印象だけど、最終的にはヤコブセンが8位、バルダル10位。最後のプラニッツァの団体戦では勝って、ヒルデも復活の兆しが見えた。チームとしてはむしろAUTより新陳代謝がいい、というか、ほぼ毎年、期待の持てる若手が出てくる。今季はエヴェンセン(総合20位)。札幌のコンチや宮様に来ていた若手が順調にWCに出ている。オフに入る直前の国内選手権ではヨケルソイが勝ったと聞いた。 バンクーバー、そして地元のWM、2010年オスロ大会と畳みかけていくのでしょう...か?
さて、オリンピックイヤーは誰が抜け出すのかな...
※TOPの写真は左からオッリ、岡部、モーゲンシュテルン、シュリーレンツァウアー、、ロイツル、アマン
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