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C O N T E N T S |
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02/03-ついに手術へ。 00年夏、マルティンは札幌に来たものの膝痛で試合では飛ばなかった。膝蓋腱(膝のお皿のところの筋)の炎症と伝えられていた。その後、本人曰く、大ジャンプによる着地の衝撃が原因で、反対側の膝も痛くなる。 腱が切れているわけでも、半月板にヒビが入っているわけでもないから、当初は手術はしないとのことだった。手術をすれば回復にそれなりの時間がかかる。02年夏、休養や陸トレ後、飛んでみたものの調子はよくなかった。小さくて軽い選手より着地時の負担が大きいから、大ジャンプさせないでと訴えていた。負担を減らす方法が1つある。減量だ。マルティンの場合、それはないよなぁと思う。マルティンは着地のときに右足を内側にひねるクセがあり、それが膝を痛める一因だという。それには筋肉をつけることらしいが。 いっこうに痛みが消えないので、ついに手術に踏み切る。いわゆる内視鏡手術。膝の2か所に小さな穴を開けてカメラと器具を入れて行う簡単な手術。やはり決定的な怪我はそこには見受けられない。ただ炎症しているだけ。それで膝のちょうつがいを少しゆるめた。これで痛みがなくなるらしい。「ちょっとした手術で絶大な効果」と執刀医は語っていた。しかし手術後、腫れがなかなか引かず、定期的に水を抜く必要もある。思っていたよりも大変そうだ。そもそもしてよかったのか?ということさえ疑問になってくる。でも済んだことを言っても仕方ない。 11月上旬、チームは雪上トレーニングのため北欧へ旅立った。マルティンは同行できず、開幕戦のクッサモとその次のトロンハイム、つまりスカンジナビアでの4試合を棄権。12月 7・8日の地元、ティティゼー-ノイシュタットでカムバックを狙ってはいるが、状況によってはここで飛べるかもわからない。最終的にはジャンプ週間に合わせるのが目標。4戦も棄権すれば当然、WC総合はない。その代わりWMを狙う。去年もよくなかったのに金メダル(団体)取りましたからね。シュミット復活なるか、乞うご期待です!! |
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01/02シーズン、チームメイト、ハナヴァルトがジャンプ週間完全制覇を果たす。マルティンはオリンピックの金メダル候補にさえ名前が挙がらなかった。マスコミの注目度も少しは減って(そうでもないらしいけど)リラックスできたのか、不甲斐なさがストレスになったのか。今後の彼はどうなっていくんでしょうね? うなっていくんでしょうね? |
![]() マルティン・シュミットのことだ。日本で言うところのタレント、アイドルという職業がないドイツに於いて彼は確かにアイドル的存在。それも半端じゃない騒ぎ。でも、優男かぁ? 外見は、そりゃあかなりかわいいし、とてもやさしい。思わず触れたくなるような白くてモチモチしたほっぺ。あの照れた笑顔には女性ならとりあえず誰もが「か・わ・い・い!!」と叫ぶことだろう。しかし...。 優男...骨っぽいアスリートに変身....? 当たり前のことだけれど、彼はアイドルジャンパーとして(そんなジャンルあるかッ?!)デビューしたわけではない。 んなジャンルあるかッ?!)デビューしたわけではない。 |
要するに、人気はあるが実力のないジャンパ![]() 勝つようになって露出が増える。例えばニュースのスポーツコーナーで「今週末、ドイツのジャンパーが優勝しました」と彼の顔が映る。「誰これ?かわいい!!」と、みんな試合の中継を見るようになり、シャンツェに足を運ぶようになる。そうして始まったドイツのジャンプブーム。商売になると踏んだのが民放局、RTL だ。 踏んだのが民放局、RTL だ。 |
マルティンが引き起こしたドイツジャンプブームの到来である。![]() ドイツの男性たちが、自分の彼女たちが夢中になっているマルティン・シュミットなるモノがどんなオトコなのかと見てみたときのリアクション。--「何だ、子供じゃないか」これがマルティンに対する世界共通の男性のリアクションなのかもしれない。「アイドルの優男が骨っぽいアスリートへ変身できるか」--男性はそう見ているのかもしれない。 ブレイクから4シーズン目の01/02。人気にあぐらをかき練習を怠っていたから飛べなくなったわけではない。確かに人気があることは彼の言動を左右しているかもしれないが。問題はむしろもっともっと深刻で、手強い。ヘスコーチは首を傾げる。「彼のジャンプにとくに失敗は見受けられない。それなのに距離だけが10m足りない」 る。「彼のジャンプにとくに失敗は見受けられない。それなのに距離だけが10m足りない」 |
欠点がわかっていればそこを直せばいい。![]() 再び助走速度は速くなったという。 |
「ジャンプ自体には問題ない」のだから、![]() とにかく、マルティンをアイドルにしたのはメディアであり、ファンである。では、これほど人気が出なければ失墜することはなかったかというと、そういう話でもないだろう。失墜?!なんだかんだ言われても彼は予選免除の15位以内にとどまっているのだけどね。 位以内にとどまっているのだけどね。 |
なくせない夢を叶えていくたび、少年を脱ぎ捨ててく背中」 「なくせない夢を叶えていくたび、少年を脱ぎ捨ててく背中」という今井美樹の歌の歌詞をマルティンを見るたびに思い出す。どんどん記録を塗り替え、どんどん夢を叶えていったマルティン。小学生かと思うほど子供っぽかったり、拍子抜けするほどクールで大人だったり...。そういえば、昔はもっともっと屈託なく笑うコだった。今シーズン、順風満帆に行かなかったことが、きっと彼の選手経歴や人間形成にプラスになっていくのでしょう。そうあってほしい。 そうあってほしい。 |
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スロベニアのペテルカはワールドカップ総合二連覇のあと転落。ゴルトベルガーは、え〜と、総合優勝何回してるんだっけ? そんなこと言ったら、総合優勝を何度も成し遂げている選手はもっといるのだけど。 マルティン・シュミットの場合、1度目、98/99の総合優勝はビギナーズラック(?)もあったような、巡り巡って総合優勝した感じもした。本当に産物というか。もちろん、狙ってもいなかった。2度目はまさにイケイケで、三つ巴をしっかり勝ち抜いた。 では3年目は? 2度あることは3度あるのか? マリシュがいなかったらシュミットは総合優勝していただろうか? 順送りになればそうなるが。 |
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![]() 01winter 小指と一緒に絆創膏で巻かれた左薬指は練習中に骨折。 そんなにやさしい顔で何を話しているの? |
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00/01を終えてのインタビューで彼は、 いつものことながら、今イチな夏を経て、さすがに3年は続かないだろうというのがシーズン前の大方の予想。夏は成績以外についてもずいぶん書かれていた。思い上がってるとか、チーム内で浮いてるとか、強かったのは昔の話で今は人気が先行してるとか。ドイツのマスコミ、そしてそれに乗って日本の新聞も。「若いうちにあまり勝たない方がいい」という原田選手のコメントまで載っていた。 それなのに、あっさり優勝をさらった開幕戦。−あら? アホネンはどうしたの? 彼はクオピオはあまり得意じゃない−ただそれだけ。ただそれだけ!? そして、暖冬。雪不足で相次ぐ試合中止。誰もが調子に乗れないままジャンプ週間を迎える。 |
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大倉山では三連勝中だった。(思いがけず)白馬で勝ったから期待もしていたのだけど。左手の小指と薬指が一緒に巻かれた白い絆創膏がいたいけな感じ。スキーテスト中の転倒による怪我は大したことがなかったけど(肩の脱臼と小指骨折)、精神的に少し後を引いたという−転んだのは久しぶりだったから。 札幌での失墜はスキーのせい?横風?踏み切りのタイミング?一番の原因は“力み”なのでしょう。そう、大倉でなら、白馬のように勝てるかもしれない。勝ちたい! 彼もひょっとしたら日本選手が言う“アダマリ症候群”にかかっていたのかもしれない。失敗ジャンプ後、機嫌が悪いかと思いきや、意外にそうでもなく、にこやかにドイツのテレビのインタビューに答えている。 大人になったもんだ...と私は思ったのだが、それが無理をしていると写っているらしかった。 |
地元ドイツ、ヴィリンゲンの試合がさんざんな結果に終わって、周りはむしろ、金メダルには、あきらめムードさえあったラハティの世界選手権。 というか、やはり、ここはアホネンでしょう、フィンランドでしょう、と、誰もが思っていた。夏のあの圧倒的な強さは影を潜め、悲壮感さえ漂うアホネンは、ついにタイトルを取れなかった。シュミットのラージヒル個人、そして団体でのタイトル防衛は、どちらも予想外だった。もちろん、そうなる努力はしているのだろうけど、マルティン・シュミットはやはり、ついている、というか、巡り合わせがいい、幸せな星の下に生まれついている感じだ。 フライングW杯優勝。マリシュの圧倒的なシーズンながら、最終戦でも勝ち、いい感じで次につながったのではないか。そう...“ダメ”と言われ続けたシーズンは、終わってみれば“結果オーライ”のシーズンだった。 |
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ マルティンはホントにエラくなっちゃったのか・・・!? |
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3位でも「負け」と書かれることに彼が腹を立てていたのはたった2、3年前のこと。「15位になったら辞めちゃうかも」という発言は本気じゃないにしても、感情的にはわかる。 00年の夏は同様に人気のあるハナヴァルトがいなかったから、彼だけが浮いているように見えたのかも。 たとえば選手が2、3人で歩いていてサインを求められる。他の選手は当然、サインをするのを待ってはいない。それは仲間はずれではない。同じくらいの年のコが集まれば親しげに見える。でも、ジャンプは個人スポーツだし、チームメイトでも、仲良しグループではない。会社と同じ。毎日でもお昼ご飯を一緒に食べる同僚と、休みの日にまで会うだろうか? 有名になって、忙しくなって、「そんなことやってられません」と言うことは増えたでしょう。 |
助走距離にしろ、スケジュールにしろ、何につけても「トップに合わせてよ」と、トップだからこそ要求できることはある(もともと強気なところはあったけどね...)。それを偉くなったもんだ、変わってしまったと言うのだろうか? 彼だけ特別扱い...それはそうした方が周りが扱いやすいからもある。 例えば彼が強風でジャンプ台を下りる。「ポイントを不意にするのも辞さないなんて、なんて勇気のあることか」とたたえる声の裏で、下位の選手が同じことをすると、ただの臆病者と言われる。それは彼らの問題ではなくてマスコミの問題。 勝てないと、ときとしてむくれることもあるけど、このごろは「大人じゃん」なのだ。はっきりものを言うことで非難されるなら、もう言わない、少なくとも人前では。とにかく何をしても人目をひくし、たたかれる。人は学ぶ動物なのです。でも暴走しそうな彼を止めたのは、今年のマリシュなのかも。 |
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確かにかわいいんです 「シュミット選手って、窪塚洋介に似てると思いませんか?」 と、あるとき言った人がいた。ウン、ウン、うなずいたのは私だけだったけど...。 え〜と、あと、メル・ギブソン主演の映画『パトリオット』に出てくる、彼の次男役の男の子、ストーリーの最初の方で殺されちゃうんだけど、この子もマルティン似です(長男役のコは『ロックユー』で主演しています!飛行機の中でこの映画、見ました。お金を出して見るほどおもしろい映画じゃないけど、気が向いたら、これを確かめるためだけに見てみてください)。それからウイリアム王子(!)似てはいないけど、同じ系列だよなぁと思います。スペインのサッカーのラウル選手。彼がブラックコーヒーだとしたら(?)、それにミルクとお砂糖をいっぱい入れたミルクコーヒーがマルティン...。最近ではハリー・ポッターのダニエル・ラドクリフくん。シモン・アマンは彼に似ていると言われているけれど、目の色とか、肌の質感とか、子供のころのマルティンにそっくりだ。 ドイツにはいわゆるアイドルというものがなく、ティーンエージャーの憧れは、映画スターやスポーツ選手だったりする。昨今のドイツサッカーチームは高齢化(!)していて、例えばイングランドのベッカムのように、若くて強くてそのうえ美形という選手はいない。 |
そこへ彗星のごとく現れたジャンプ界のニューヒーロー、マルティン・シュミット。若くて、強くて、かわいい。ドイツの女の子たちは今、彼に夢中。 99年(だったと思う)マルティンはTV局からドラマ出演を依頼されたという。夕方7時からの帯ドラマ。う〜ん、確かにドイツの番組を見てると、役者さんより彼の方がかわいいかもと思うことはある。でも少なくともシーズン中は無理でしょう。 ドイツってヘンな国で、ラムサウのWMラージヒルでシュミットとハナヴァルトが1・2フィニッシュし、団体戦で金メダルを穫り、国内で人気が頂点に達すると、シーズン中にもかかわらず、バックストリートボーイズスタイル(ってどんなの? 歌って踊るの?)のCDを出すという話が...。曲が用意され、スタジオが抑えられ、レコーディングできる状態で金メダルカルテットを待ってた。もちろん断られる。 ドゥフィは言いました「オレ踊れないって!」 マルティンが自分を切り売り、商品化しているのではなく、周りが彼を商品化しようとしているだけ。大人が彼で稼ごうとしているだけデス。 それにしても、どうしてあんなアイドル笑いができるの!?あれはスゴい。本人曰く:「生まれつき」 |
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マルティン・シュミットの快進撃は開幕戦のリレハンメルから始まった。その後、シャモニー、オーバーホフと好調を維持し、ハラコフの2戦をパスしたあと、年末年始の伝統のジャンプ週間で開幕二連勝。その軽さと危なげなさは、総合優勝をも予感させた。少し贔屓目ではあったが。少なくともその時点で「今年は彼が行く」と、会う人、会う人に、私は言いまくっていた。特に確信があったわけではない。ただ「そうなったらおもしろいなぁ」と思っただけ。名もない選手がフラッと、2つ3つ勝つ。まぐれかもしれないし、実力だとしても勝ち続けていくプレッシャーには勝てず、長続きはしないだろう--それが大方の予想だった。 |
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だから今シーズンの開幕戦、リレハンメルでマルティンが勝ったとき、それはそれは驚いた。でもそこでガッツポーズをしていたのは、確かに、昨シーズン、札幌で、この目で見たあのマルティンにちがいなかった。あれまあ!! 無名選手の勝利にシャンツェもざわめいていた。去年はまだあどけなさの残る少年だった。そのとき19歳だった彼は、一緒にいた最年少16歳のミヒャエル・ヴァーグナーと大して変わらない感じがした。いわゆる軽いノリの今どきのコで、才能が開花するには、ドイツにとって本格的な戦力になるには、まだもう少し時間がかかりそうで、ディーターやハニーに、そう、おニイさんたちについて来たという感じさえした。 「彼ら2人はまだ安定しないんだよ」 とヘスコーチ。やっぱりネ。 |
選手を覚えるためにアタッシェは似顔絵を描いたり特徴をメモったりするのだが、当時の選手リストの彼の名前のところには、「おねむの目」--それだけがメモしてある。確かにかわいかった。ハナヴァルトを形容する言葉が「キレイ」だとしたら、マルティンは「かわいい」タイプだった。でもこの世界、かわいいだけではもちろん通用しない。札幌へ来た8人のドイツ選手のうち、WCを終えて国へ帰ったのが、ジークムント、ドゥフナー、ホルンシューの3人。今一つ不安定だったマルティンは、それでも、トーマ、ハナヴァルト、イエックレ、ヴァーグナーとともに長野オリンピックへ行き、個人戦ではドイツ選手の中ではナント最高位。団体戦1本目は失敗ジャンプだったものの、2本目はしっかり飛び、銀メダルに貢献している。 |
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「去年あなたはオリンピック 取材でそう聞かれて彼は |
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話を戻そう。あのマルティンが、である。自分が知っている、海のものとも山のものともつかなかった選手が--といってもWCで飛んでいるということ自体、すでに世界レベルの選手ではあるのだけど--名を成していくというのはなんとなくウキウキする。最初はまぐれだと人は言った。かもしれない、1度や2度なら。でも、あんなにダントツで?だれもが勝因を探り始める。板が長くなったから... 日本のマスコミはその一点に注目した(それでなきゃ日本選手が救われない)。 確かに大ジャンプを持ってきたあと、着地する前の瞬間、板が浮力でグッと数m距離を伸ばすのが見て取れた。長い板の方が助走スピードは出る。助走の1km/hは飛距離に換算すると8〜10mになるという。しかし本人は好調の理由を板の「長さの変化」に見ることには決して同意しない。 |
「一因でさえないですか?」と聞かれても「違う」と断言した。 --「最初、板が長くなると聞いたとき"やった"と思った」誰もが思うように「これでもっと飛べるようになるんじゃないか」と思った。「でもその板で飛んでみてガッカリした。距離が飛躍的に伸びるようなことはなかったから」そんなに簡単な話じゃなかった。 板が長くなっただけで勝てるなら、自分より背の高い選手はいっぱいいる。確かに板が変わったことが距離につながった。でもそれは長さが変わったからではなく、メーカーを変えたからだ。エランからロシニョールに。 このロシのスキーが彼のスタイルにすごぶる合っていたようだ。 |
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シーズンが開幕して約1カ月。 ジャンプ週間の後半2戦で初めて彼は崩れる。 「勝ち続けるプレッシャーを克服するのは難しい」とか「今まで無心で飛んでいたのが、考えるようになって飛べなくなった」と外野。 --「無欲で飛んでいたのが、勝とうと力んだ」 3位に入ったのに「勝てなかった」と表する人たちはそう思うかもしれない。 「だいじょうぶ。また元気になる。たぶん」 私は脳天気にそう思った。 それは予想ではなく、ただの予感だった。もちろん私は占い師でも超能力者でもない。 好調の理由も、沈んだ理由も、のちに直接、本人と、それから監督から聞いた。周りの心配をよそに、本人たちにはまるで迷いはなかった。というか、それを外に出さない強さがあった。 |
ジャンプ週間第3戦のビショッフスホーヘン。彼には助走路が長すぎて、あれでは立てない。 ふつうのジャンパーがK点に来るように助走路を設定すると、もっと飛ぶジャンパーは当然130m以上飛ぶことになる。着地面の角度とブレーキングトラックの長さがもっと必要になり、選手は身の安全のためにジャンプを途中でやめることになる。 4戦目のインスブルックでは板が助走路と合わなかった。助走路はスピードが出やすいアイスバーンだったし、ワックスはまちがっていないはず。たぶん「削り」に原因があったのだろうと本人。「あれはマルティンの問題じゃなくて、まったくもう板のせい」とヘスコーチも本人の不調を否定した。ジャンプ週間後のエンゲルベルクでは3位と6位。決して悪い結果ではないのに、「もう勝てないんじゃないか(そのときすでに6勝)」と周りは騒いだ。 |
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次のザコパネ。エンゲルベルクで復調の兆しが見えたから、そろそろまた勝つんじゃないか、と思う。 ところがマルティンは病欠。扁桃腺を腫らして発熱。もともと、結構、風邪をひきやすく、すぐに熱を出す体質だという。「ザコパネを飛ばなかったのは作戦ですか?」と日本の記者に聞かれた。本人曰く「週末はずっと家で寝てました」。 この欠場でWC総合トップのアホネンとの差が最高で200点加算されてもしかりなのに、2試合のうち、強風のために1試合しか行われず、アホネンの追加点が100点にとどまったのはラッキーだった。 そう、タフに戦ってきた皆勤賞のアホネンに比べて、自分が休んだ試合が悪天候で中止になったり、ライバルがチャンスを生かせなかったかったりと、シーズンを通してマルティンはなんとなくラッキーで、その点でもこのシーズンは彼のシーズンだったと言える。 |
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スケジュールは本当に過酷だと思う。翌週の試合は極東の札幌だったが、日程に容赦はない。つまり移動距離が長いから、遠いからといって、それに見合って、試合と試合のインターバルが長いわけではない。AUTは1カ月後に自国で開催される世界選手権に備えて、Aチームは来日しないという。前の週に札幌で行われたコンチネンタル杯のために来日していた選手が1人そのまま残り、もう1人Bチームの選手が来て、合せて2人の参加と少々寂しい。そのうえマルティンまでもが、体調によっては来ないかもしれなかった。 |
来れないのと来ないのとはちがうが。ドイツチームも本当は日本になんて来たくないのではないか? 札幌のあとは地元ドイツのヴィリンゲンだし。やれやれ。1年間待ち焦がれていた選手たちは来ないかもしれない。それで彼らの総合成績が上がるのならそれも仕方ないけど。だから彼らがフランクフルトで無事に搭乗したと聞いたときは本当にホッと胸をなで下ろした。そしてこの札幌の2試合は、あとから見るとまさに、キーポイントになったように思う。 |
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やっぱり病み上がりなんだと思った。 「だいじょうぶかな?」 その憂いのせいか、自分の荷物とスキーを載せたカートを前に1人立っていた彼は、ふと淋しそうに見えた。だれかについて行くこともなく、だれかを連れてもいない。 孤高のトップジャンパー?! それが「その他大勢」だった去年の彼と印象を異にしていた。そんなふうに感じたのは、あとにも先にもその一瞬だけで、相変わらず彼は、基本的にチームの末っ子的存在だった。「だるそう」というのも、確かにそのときは長旅や時差ボケで疲れていただろうけど、彼の素地であった。 |
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病気じゃなかった去年も「おねむの目」だったのだから。若きそのトップジャンパーは、えらそうにするわけでもなく、確かに私の記憶の中のあのマルティンだった。 覚えている。去年は注目選手ではなかったし、札幌での競技的な印象はほとんどなかった。とにかく、「今ひとつ不安定」というのが彼の代名詞で、2本目に進めず、退屈そうにしていることもあったっけ。 ときどき、ものすごくいいジャンプをする。でも本番2本のうちのどちらか1本だ。安定性が出てくればと言われていた。 長野五輪の団体戦でも2本目はよかった。 |
そう、彼は"まったく無名"と称されていたけれど、ドイツで4本の指には入っていたのだ。まぁ、ほとんど無名に近かったけど。ドイツのスポーツ雑誌に、"マルティン・シュミット"という彼の名前が、姓名ともあまりにありふれているため(スズキイチロウ、サトウヒロシといった感じ)ありふれた成績では人々の記憶には残らないだろうとあった。 今、ドイツではマルティンのお陰でスキージャンプ人気は、サッカーに迫る勢いである。彼が今年、急にカッコよくなったわけでもないのに、不思議なモノで、成績がよくなって、露出が増え、人々の知るところとなったわけだ。 |
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札幌の話 練習ではすこぶる調子がいい。軽〜く飛んでK点は優に越える。病気の影響はどうやらなさそうだ。 むしろ力が抜けていいみたい?一試合目の試技では141m。噂には聞いていたドイツの新鋭 マルティン ・シュミットの大ジャンプを目の当たりにして、「おい、おい、おい」とみんな。 マスコミやファンから解放されて、いつもにも増してリラックスしているのだろうか。 |
そのころ、シュミットとWC総合のトップ争いをしていたアホネンはワルシャワで立ち往生していた。 到着したのは試合前日の夕方で、彼らだけのために開かれた会見では、さすがに諦めというか、疲れた様子を見せていた。 だからそんな状況でも7位と8位というアホネンの成績は立派な結果だったと思う。機嫌もぜんぜん悪くなかった。仕方ないし、だれのせいでもないのだからと。 |
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しかしこの札幌のあと、アホネンは、悪くはないのになかなか表彰台に上れなくなる。風邪をひいたり、疲れがでてきたり。長いシーズン、それはどの選手も同じなのだが、アホネンは気丈にも休もうとしなかった。 一方、マルティンは札幌で1位と2位とすっかり復活。このコはほっといても勝っていくだろう、やり抜くだろう、と思う。 |
札幌の2試合目、6位以内には日本とドイツが3人ずつ。「日独なんとかみたいだね」とだれかが言った。ドイツは札幌で実にいい感触を得て帰っていった。「(AUTと違って)敬意を払って日本に来て本当に良かった」とヘス監督。マルティンも「年に1、2度、日本に来るのはとても楽しい」と語った。 喜んでもらえて、とりあえず日本は幸せだ。 |
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戻って、地元ドイツのヴィリンゲン。マルティンは2位をとって21歳の誕生日を祝う。 続くハラコフは世界選手権の準備のためにパス。 世界選手権のラージヒルはジャンプ週間のとき彼が14位に終わったビショッフスホーヘン。周囲は不安と期待が入り交じった声。 メダルの重圧--。「取れたら嬉しいけど、取れなくてもそれまで」もちろん内心は喉から手が出るほど欲しいし、取れなかったらものすごく悔しいに決まってるが、その気持ちを内にしまっておけるかどうかは大きな違いだ。彼の勝利が、長くなった板ゆえだとしても、外野に左右されないこの集中力は評価できるし、それがなければ連勝もないのではないか。 TVでマルティンを見てまた「彼が勝つ」、そう思う。船木クンは浮かない顔に見えた。ハニーの銀メダルは予想外だったけど(1本目のジャンプは最高でした)。 北欧ツアーに入ってもマルティンの調子は落ちなかった。周りが「総合優勝は射程距離に入った」と言っても、本人はあくまで「総合優勝の最有力候補はアホネンでしょう」と言っていた。さすがにイエロービブを手に入れてからは、もう2度と放したくなかったとは言っていたけど。 |
あらゆることをマルティンは1つ1つ成し遂げていった。でもまさか本当に総合優勝まで持っていくとは思わなかった。 札幌で「総合優勝はどうですか?」と聞かれて「(総合成績表で自分以下、3位、4位当たりの選手をペンで指して)後ろはだんご状態だけど、アホネンとはだいぶ離れちゃってるから、難しいんじゃないかな...」 ヘス監督も今後の展望を聞かれ「世界選手権は狙えるけど、総合優勝はいろいろあっての総合優勝だから、予測がつかなくて、今は何とも言えない。難しいかもしれないね」と語っている。 総合優勝とは、あくまで産物、結果なのだ。シーズンを通してだれが一番安定していたか--そういう賞だから私は是非、ヤンネにあげたかった...。 一番驚いたのは本人かもしれない。「世界選手権の金メダルとWC総合優勝とどちらが価値があると思うか」と聞かれて、選手経歴としては総合優勝の方が価値があるんだろうけど、でも世界選手権の金メダルというのは、なにものにも代えがたい価値があるものだから、自分の中ではどちらにも決められないのだと言う。 |
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来季は...? 期待によるプレッシャー? 転落の不安? 日本で言うところの2年目のジンクス...。 「これを繰り返せるとは思っていない。今季は唯一無二なのだから」 だから相変わらず自分のジャンプに集中するだけだと言う。 「あなたは私たちの期待の星」と言われ 「それはよかった。でもボクは誰のためでもなくボクだけのために飛ぶんです」 --世界選手権のとき、彼はきっぱりとそう言い放った。精神的につぶれてしまうことはなさそうだ。 そして次のシーズンも元気で札幌に飛んで来てほしい。 怪我をしないように。あまりカッカしないで。 そして相変わらず「おねむの目」のふつうのコでいてね。 |