Summer Grand Prix
2001 Hinterzarten2001 Sapporo2002COURCHEVEL
2001 Hinterzarten
保養地ヒンターツァーテンの教会と99年に改修されたK95のジャンプ台
夏は様子見--そうマルティン・シュミットは繰り返す...。この時点で、ドイツの主力とFINチームが日本へ来ないとは知らなかったが、ドイツ旅行のついでにGPを見に行ったのは偶然にしろ本当によかった。この前ここでヘスさんに会ったとき「来月、札幌でね」と彼は言ってくれたのに...。

ドイツに到着したのは8月11日(土)、つまり開幕戦の日。フランクフルト到着は夕方の6:30なので、この日の試合を見るのは不可能。空港でレンタカーを借りて、フライブルクまで移動する。この車(メルセデスベンツC220 CDI)スピード出る! 前にドイツに住んできたとき乗っていた車、フォードシエラはもうがんばってスピードを出しているという感じだった。でもこの車は加速がスムーズで安定感があり、スピード感が全くない。怖さがないのだ。それに応じてブレーキの利きもいい。

空港を出たのは7時すぎ。夏のヨーロッパは日が長く、その上、夏時間なので明るいうちに着けるが嬉しい。フライブルクではいつものホテルに宿泊。翌朝、新聞の一面を飾っていたのはマルティン・シュミット。一昨年の一面はディーターの引退記事だった。
地元スター、ハナヴァルトのポスターを飾る郵便局のショーウィンドウ。ドイツの郵便局は民営化以来、文房具やちょっとしたおみやげなども扱っている。ハナヴァルトの絵ハガキなどもある。
満員のお客さん

朝食後、車でヒンターツァーテンへ。フライブルクに住んでいたころ、よくドライブした道だ。山道へ入っていくと、まるでジオラマのようなトンネルや橋が見えてくる。思えばあのころ(93年)はヒンターツァーテンで下りたことさえなかったような気がする。

街の入口の臨時の無料駐車場に車を止める。ふだんは原っぱ。シャンツェまで少し歩く。チケットとパンフレットを買い、スタートリストをもらう。お金を払って観客の立場でジャンプを見るって新鮮だ。
会場の下の方、ブレーキングトラック付近はすでに埋まっている。徹夜組はいなかったみたいだけど、女の子たちは朝の4時、5時から来ているらしい。そして彼女らの狙いは選手に手が届く場所、サインがもらえる場所、写真がよく撮れる場所、である。我々はどこで見ようかと迷うが、斜面に向かって右側、リフトの下にする。理由はとくにない。

アダム・マリシュ
船木選手

会場に着いたのは予選開始の直前だったので、選手たちはもうスタートに上がってしまったようだった。おととし、このリフトは使われておらず、選手は車でスタートへと運ばれていた。だから今年もそうだろうと思った。リフトを使うと大騒ぎになるからかなぁと勝手に思っていた。使わない本当の理由はリフトが距離計測の邪魔になるからで、去年もリフトは使っていなかったそうだ。だから選手がリフトで上がってきたときも、最初はテストジャンパーや番号の若い選手だったから、まさか全選手がリフトを使うとは思わなかった。

予選。ここ、斜面の中腹からは飛び出すところは見えず、スタート、助走、踏み切りは巨大スクリーンで見る。風の状況とフライトはとてもよく見える。ハナヴァルトは予選落ち。調子悪そう...。少しすると予選を終えた選手がなんと、1本目のためリフトでスタートへ。足でもつかめそうなくらい近く感じる、実際には全然届かないのだけど...。みんな選手の名前を呼び、こっちを向いてもらおうと必死。そういう意味ではオイシイ場所だったのかも。もっとも去年まではリフトは使われていなかったから、みんなこんなことを予想してこの場所に陣取ったのではないらしく、嬉しい誤算だったようだ。

ヴィドヘルツル
結構、夏が似合います。ヤンネ・アホネン

それでは、リフト上での各選手のリアクション:
アホネン:すぐ近くにFINファンのおじさんがいたのだけど、彼が必死でFINの旗を振り「ヤンネ! ヤンネ!」と叫んでいる。アホネンが「わかったよ」という感じで2、3度うなずく。冷たいと思われがちな彼のこの反応に、おじさんのみらなず、周りのみんなは大喜び。

ゴルディ:成績も出ているせいか、ニコニコと、ときどきは声援にも手を振って答え、愛嬌を振りまく。

シュミット:多くのティーンエージャーファンはずっと下、ブレーキングトラックに張り付いているようだったが、やはり一段と声援は高まる。本人は微笑んではいるものの、決して声のする方に顔を向けようとしない。きっと恥ずかしいのでしょう。

ヘル:この夏、練習中に転倒し、また同じ膝を痛め、現役続行さえ危ぶまれた彼。問題なく飛べているようで、とても嬉しそうだった。声援に手を振って応える。ハンサムで礼儀正しくて感じのいい彼などは充分アイドル的要素を持っている。それでもシュミットのように大アイドルになるには強さが不可欠。やはり勝てる選手じゃないと、希望を掛けられないということらしい。

本当はかなり照れ屋
マルティン・シュミット
残念ながら予選落ちのハナヴァルト。理由は筋肉痛!?
ハナヴァルト:残念ながら予選落ちしてしまったので、もう上には上がってこないだろうと思っていた。でもなぜか、上がってくるではないですか。落胆していながらも、声援には微笑んで静かに手を振って答えている。彼の視線の先にいる人はみんな必死で彼の名を呼んだり旗を振ったり。私は叫んでもいなかったし、何か振るものも持っていなかった。テレパシーは送っていたかもしれないけど(ウソ、ウソ)。何気なくまんべんなく下を見ていたのだろう。ナント彼は気づいてくれた。こんなところで会うのが意外だったようで「アッ」という形の口のままリフトは動いていった。
2本目。時折、とても強い向かい風が吹く。下位選手の間ですでに大ジャンプが出る。いつキャンセルになるかと思う。ヘルヴァルトがうまく風を捉える。アホネン。吹き流しが逆立つほどの向かい風なのにスタート。エーッ!? これってラッキーなの? 飛んじゃうよ。目の前に彼が現れたとき、ふわと上がってあおられ、体がブレーキを掛けたように見えた。優勝はヘルヴァルト。観客サービスのためか、表彰台が360°回った(手動です。裏で人が必死に押していた)のにはビックリ!!
夏は1年ぶり、原田選手
FINチームが宿泊しているとおぼしき宿の前を偶然、通りかかる。スゴイ人だかり。というかFIN国旗を持った一団がいたので彼らの宿だとわかったのだが。
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シュミットのブレイクでジャンプブームが到来して以降、ふだんは静かでむしろ退屈な保養地、ヒンターツァーテンの町中のホテルは、GPの間は 金曜日の予選から、ゼッケン配布セレモニー、試合と、1週間にも満たないイベントに、満室になる。この年はホテルで写真展が催され、ライブがあったり、夜にはファンも参加できるパーティがあったりと、いろいろお楽しみがある。

ドイツも日本と同様に開催地に住んでいるファンは少ないし、スキーに縁があるファンも多くはない。シュミットで、ハナヴァルトでジャンプを知った女の子たちがブームを支えている。

ハナヴァルトの住まいの前にベンチがあって、そのベンチにファンがいろいろ落書きをしている。名付けてハニーバンク(ハニーのベンチ)。選手たちはもう次の大会地へ移動していったであろう翌日もそのベンチのところに女の子たちがたむろしていた。追っかけとはいっても、外国(隣国だけど)までは行かない。せめて、遠路はるばるやって来た、憧れの君の住んでいる土地を堪能しているのでしょう。また、来年...。

小麦色の葛西選手


Grand Prix 2001 in Sapporo
大倉山から札幌市街を望む
プラスティックのマットがひかれたサマーヒル
これまでの札幌の夏の振り返る:札幌でFISのGPが行われるようになったのは99年。来札したのは個人的な事情のある選手を除いてほぼフルメンバー。ハナヴァルトが総合優勝を果たす。このころ日本シリーズはちょうどF1の鈴鹿のようにGPの最終戦を飾っていた。先日、この夏のアルバムを見る機会があった。顔の確認のため、ほぼ全員がゼッケンを手に写っている。ホントに子供みたいなシモン。ユッシ・ハウタマキはちょうど02夏のマッティのようにスポーツ刈りで、たった3年しかたっていないのにみんなけっこう大人になっている。バス内で撮られた写真はまるで遠足だ、それも小学生の。スタート地点でアホネンでさえカメラ目線で写真に収まっているのに、絶好調だったハナヴァルトはとてもとてもナーバスで写真を撮られることさえ拒否した。
翌2000年はアホネンのGP。右腕のタトゥーをひけらかして向かうところ敵なしだった。ハニーは不参加、マルティンは来札したものの飛ばず。
3度目でおそらく最後になるのがGER、
FINが不参加だったこの2001年のGP。

--シュミット、ハナヴァルト、フィンランドチームの棄権を受けて--
まぁ、夏だからね、と広い心になれるまでは少々時間がかかった。すべては冬のため、と言われれば納得はするけれど。札幌-白馬間の移動が大変と言われると返す言葉がない。それなら「夏」という理由ではなく冬だって。この冬はオリンピック前だし、日本へ来なければ、まとめて3週間は練習できる。日本では報道陣やファンから解放されるのでとても快適、と言っていたのはたった2年ぐらい前なのに。

夏の試合の意味は、自分の現在地の確認、そして、ほかのチームが何をしてるか、何か新しいことはないか、状況を見ることにあるという。

だから試合には4つも出れば充分だとマルティンは言った。ポイントや優勝は問題ではないと。2年前の夏、GPのポイントも総合に加算されるようになって、もはや夏もただの練習試合ではなくなった、と言われたものだが。

ハナヴァルトが圧勝し、アホネンが制圧した。しかし彼らがそれぞれの冬に、夏の好調さを持ち込めなかったことに起因しているのかどうか、再び、夏の結果は重要視されなくなった。「再び」というか、以前も、夏の時点で好調で、仕上がっている選手が上位を占めていただけで、夏を狙っていたわけではなかったのだろう。

マルティンがブレイクしたシーズン、彼は夏から好調で、GP総合で初めて個人の表彰台に立った。兆しぐらいにはなるだろう。

夏の好調は必ずしも、と言うか、まったく冬にはつながらないことは、例えば00/01のアホネンの例でよくわかる。とは言っても、ヤンネの冬のジレンマは、悪くはないのに、とにかく勝てないというところにあったのだけど。

その前のハナヴァルトもそうだった。

FINはあまりの不振を理由にGP後半戦をキャンセルして、トレーニングするという。これ以上試合をするのは無意味ということだろう。

好調のオーストリアは本当に来るのだろうか!? と思う。

その後、ヴィドヘルツルが棄権を表明。「あの事故の後遺症からか、この夏は腰の調子が悪く、思うように練習できなかった。今はもう問題はないが、長旅のリスクを冒したくないし、その間に練習の遅れを取り戻したい」というのが来日を見合わせた理由。

試合は国際レベルの試合としては札幌初のナイターで行われた。菫色の黄昏、上空に広がる秋の雲。初めてのナイターはとても幻想的だった。

試合は2本目、132mの大ジャンプを見せたホルンガッハーが優勝。2位はゴルトベルガーと、AUTの1・2フィニッシュに終わる。AUTはこの夏、チーム全体が好調なところを見せつけた。1本目でトップに立ったSLOのダミアン・フラスは2本目、目の前でホルンガッハーに大ジャンプをされ、惜しくも7位。彼以外にもメドヴェド、ラデリといったスロベニア勢の躍進は目を見張るところがあった。

ゴルディは5位から2位へ。3位に入ったのはUSAのアルボーン。1本目7位からの躍進で、初の表彰台。

日本勢では1本目3位だった原田が、残念ながら2本目で5位に後退。

あまり調子がよくなさそうだったマリシュは4位とまとめた。

驚いたのはGERのシュテファン・ホッケ。ヒンターツァーテンではいいジャンプをしていたけど、まだ17歳で、シュミット、ハナヴァルトの代わりに日本に来たBチームの選手。1本目4位はドイツチームで最高。2本目はさすがに緊張したのか、9位と順位を落としたが、彼にとってはとてもいい経験になっただろう。国際大会、それも自国以外で開催されたWCクラスの大会で、一度は4位になった。エース不在の試合とはいえ、価値はある。

ビックネームの不在にもかかわらず、エキサイティングで、いい大会だった。
欠席したらその席は空いたままではなく、詰められてしまうか、もしくは誰かが飛び込む。もっともビックネームはいなくても、その時点でのトップ3は顔をそろえていたが。
参加選手が少なく、予選は行われなかった、つまりふだんは予選落ちするような選手も本戦に進めたと言えるのかもしれない。しかしそれでジャンプの、試合のレベルが下がったという印象はなく、何となく「つまらない、低調な試合になるのでは」という予想は覆された。

GPの価値が下がったのかどうか、今後も夏に限らず、こんなこと--トップ選手が来日しないことがあれば、確実にそのチャンスをものにしていく選手も出てくるだろうし、それはそれでいいことなのかも。
ドイツのヘル選手が「このメンバーなら10位以内には入りたかった」と言っていた。自分より確実に上位に来るであろう選手がいないので、ベストを出せればそれが果たせるはずなのに、そうは簡単にいかないものだ。そしてそれができればきっとトップ選手がいてもいいところに行けるのだろう。

とにかく、試合は思っていたよりもずっとよかった。

考えてみれば、去年の夏だって、ハニーは来なかったし、マルティンは来札したものの膝の怪我で1度も飛ばず、何となく不機嫌さを抱えた試合だった。もっともヤンネがダントツによかったのだけど。

短い大会だった。でも、いい試合だった。なめられてる?! 確かにそうかもしれない。でも、あなた達がいなくても世界は動く、地球は回るよ...なんて言いたくなる。

この先も夏に限らず、ここに世界のトップが顔を揃えることがあるのだろうか、と思う。とくにこの冬はオリンピックがあるから、そのために日本をパスすることは大いにあり得る。札幌は五輪前、最後の調整、最後の団体戦のチャンスというのも説得力に欠ける。

総合ランクトップ3に原田を加えた試合は見応えがあった。棄権した看板選手たちは来たとしても優勝に絡むという保証もなく、だからこそ棄権を決めたのかもしれないし。

試合前夜、ランニングに出かけるヘルヴァルトを見かける。
彼のストイックさに、どうしても冬の事故がダブってしまう。勝ちたいのだろうなと思う。勝たせてあげたいと思う。
ひたひたとオリンピックのある冬は近づいている。

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